「私がユダヤ人だから」のセリフ追加は、あれだけは不要だった。差別があったことを宿泊拒否の理由にすれば、確かに芝居としては話が分かりやすくなるかもしれないけどさ。差別が原因だったら被差別者が激おこで人前で自分が何者か声高に叫ぶものかよ。しかもオットーそういう行動をとる性格じゃなさそうだし。

私は、自分の好みに合わないことを一点も許せないほど高尚な人ではないけど、本当にこれだけは惜しまれます。むろん、許可をとって行われた改変であることは理解してます。

ナチスの持ち込んだユダヤ人差別と、古来からのユダヤ人差別ってのは、似てるようでかなり違うものです。どっちも良いことではないけど。世界のいろんな国で、差別は強くなったり弱くなったり変遷を重ねてきた。この時代は、というかワイマール憲法下ではユダヤ人の保護は比較的厚くて、ベルリンへのユダヤ人の流入が多かった時代です。そして1928年は、ナチスは影響力を高めつつも、まだ政権をとってない。というか、共産党ドイツ社会民主党もその他の政党も、突撃隊と大差ないガラ悪い武装組織を持って町を練り歩いていたんだ。でさ、赤色戦線の制服って、だっせーの。

でも、宗教上の理由でユダヤ人を差別している他国の人が、ナチスに追われたユダヤ人を助けるはずがないんだ。これはまた後の時代の話。あれは本当に起こったことで、1928年から地続きだけど、もうちょっとだけ後の話なんだ。

1928年は、書くと長くなるのでものすごく乱暴に結論するけど、裕福で「身なりの良い」ユダヤ人は、未だグランドホテルの客になれる時代です。もちろん、支配人をはじめとするホテルのスタッフ個々が持ってる偏見とは、また別の話。というかホテルのスタッフにもユダヤ人の一人や二人は居るでしょうよ。プライジングさんとこの社員にも、ライバル社にも、男爵の戦友にも、ヘル・ドクトルの同業者にも。そして、オットーと一緒にパリに行く人も。