東京千秋楽になろうって今なに書いてるんだよ。

って言われるかもしれませんが。だってツイッターとかしてませんし。一回しか生で見れなかったのにデケェ口叩くのはとてつもなく恥ずかしくて、今の今まで悩んだんです。ほら、誰だって、大して見てもないのにスカステの映像だけでゴタク並べる人のブログを読んで恐ろしい思いをしたことの一度や二度はあるでしょう。私もあります。でも、グランドホテルは円盤化できそうにないし、内容を忘れるのも嫌だから書き残します。ごめん。

劇中の歌詞から考えたら、男爵は間違いなく戦争に行ってるはずだけど、1928年の時点で29歳…と、29ヵ月。29ヵ月のほうは相手に合わせて逆サバ読んだ感じなので、29歳として。終戦時に19歳では、男爵若すぎませんか?という疑問について。時々不思議に思われる方がいるようで。指摘はもっともです。確かに敗戦は1918年。ほんの10年前です。敗戦の時点で男爵が19歳ならば、徴兵年齢に達していません。つまり、男爵は徴兵対象者として従軍した人ではありません。プロの軍人です。

男爵の年齢が若すぎるので、設定の誤りなのかといえば、そうではありません。男爵は、ご身分柄幼年学校上がりの若年士官だったのでしょう。軍事大国プロイセンの幼年学校は、男爵のような貴族だとか良家の子弟が、紳士に、そして高位の軍人になるべく教育を受けるところです。そのへんの家の子が希望して入学出来るところではありません。日本でいえば、小学校高学年くらいの年齢で、幼年学校に入学します。そして、だいたい18歳の若さで少尉殿になるので、着任後1年くらい戦地を駆け回って終戦を迎えたら、劇中の時間の流れの通りとなります。一切矛盾なし、良く出来てます。まぁでも早いわ。日本軍の場合は制度がコロコロ変わってますが、よっぽど早くて21歳でなかったか。私は軍オタでないのであんまり自信ないけど。

そして男爵は、敗戦後の軍解体・軍縮で将来設計が狂って除隊されたのでしょうが。なんせ軍隊内でさえ従卒がついていたであろう身分のボンボンです。仕事といえばお馬さんの乗り方と鉄砲の持ち方しか知らん人が、シャバで地に足つけた仕事なんて出来るわけないんだぜ。紳士、そして軍人になる教育は受けていても、文官になる教育は受けていません。民間起業で働こうにも、伝票も書けなきゃタイピングもできません。まさに、ヘル・ドクトルが言う「金の無い貴族ほど使えないものはない」ってヤツです。もしかしたら投機の才能、というか博才はあったのかもしれませんが、地に足つけて生きてるとは言わないでしょうよ。戦後10年食い繋いだだけで立派なもんです。

平時に於いても、高いご身分の人は、収入が多くても同時に出ていくお金も多くて案外カツカツです。そして、プロイセンでは、19世紀末から、経済的に困窮する貴族が増加していました。華やかなのは表面上だけ。さらに敗戦によって、男爵と同様に、お金も行き場もない若年士官が沢山いたわけです(一部の人は、ジゴロになった)。エリザヴェッタは、商売柄上流階級の懐事情を良く知っていたのもあって、だから泥棒だと告白されても動揺しなかったのでしょう。男爵ならお金が必要。運転手云々を抜きにしても、彼女の仰る通りです。貴族の窃盗犯に遭遇したのは初めてでも、金が必要な貴族が窃盗を働くこと自体は、彼女のなかではある意味理解出来ることだったんだ。

一方で、そのへんの事情に疎いのがオットーです。プライジングの会社は、恐らく地方都市の民間企業で、ごくフツーにつましい人生を送ってきて、今まで一度も接したことがなかったであろう男爵様に出会って、まぁ見てるこっちが恥ずかしくなるほど舞い上がっちゃってさ。

オットーは、簿記係というユダヤ人の典型的な職に就いていますが、金融に大きな力を持ち、高位の人と密接に関わってきた、いわゆる宮廷ユダヤ人の家系ではないのでしょう。だから、高い身分の人の実情を知らない。男爵の身分を聞いただけで、人気アイドルに遭遇したかのように舞い上がってたんだ。そんな舞い上がって夢の中にいた病身のおっちゃんが、命より大事な財布を落としたときの男爵の行動で、初めて現実を察する。苦しい息の下で男爵の言い訳に合わせたお互いの優しい嘘。本当の友達になってすぐに訪れるサヨナラ。良い話です。オットーってば、だっさくて卑屈でもうすぐ死ぬけど、優しいよね。

まぁなんだ、軍隊上がりのあのマッシブな美丈夫の男爵がさぁ、中年太りのシャッチョさんと揉み合いになったってフツーに素手で勝てそうというか珠城氏なら銃弾だって跳ね返しそうな気もするさ。でも動揺してたんでしょう。これがオットーだったらシャッチョさんと揉み合いどころか肩ぶつかっただけで死んでますねたぶん。